二次元有機半導体による圧力下中性-イオン性転移

2001 年度 実績報告書

• 研究課題/領域番号: 13440088
• 研究機関: 北海道大学
• 研究代表者: 長谷川 達生 北海道大学, 電子科学研究所, 助教授 (00242016)
• 研究分担者: 溝口 憲治 東京都立大学, 理学研究科, 教授 (40087101) ; 中村 貴義 北海道大学, 電子科学研究所, 教授 (60270790) ; 芥川 智行 北海道大学, 電子科学研究所, 助手 (60271631)
• キーワード: 有機半導体 / 中性-イオン性転移 / 巨大誘電応答 / 価数不安定性 / 高圧下測定 / 中性子回折 / 誘電特性 / 電子スピン共鳴

研究概要

本研究の目的は、二次元的な電子構造を持つ有機半導体結晶・(BEDT-TTF)(ClMeTCNQ)による、新しいタイプの中性-イオン性転移(NI転移)の特徴を明らかにし、転移近傍における巨大誘電応答などの物性現象を探索することである。中性-イオン性間で価数不安定性を示す有機結晶は、これまで一次元性の強い錯体で調べられ、価数転移近傍で見られる協力的電荷移動に基づいた非常に大きな誘電応答(〜2000)などが注目を集めてきた。本研究では特に、ドナー分子の特性に由来した二次元性を持つ(BEDT-TTF)(ClMeTCNQ)に着目し、低温・圧力下における結晶構造、誘電特性の変化、磁気特性の変化を明らかにし、これによって、基底状態間の量子的な価数揺らぎにもとづく誘電応答の観測等、新しい物性現象の開拓を企図する。
今年度は、上記目的を達成するための足掛かりとして、1中性子回折用巨大単結晶の育成、2低温・高圧下における誘電特性の測定、並びに3低温・高圧下における電子スピン共鳴スペクトルの測定を行った。1では、単結晶の成長条件を系統的に調べ、その結果を利用することにより中性子回折測定に必要な大きさを持つ良質単結晶(2mm×1mm×1mm)の成長に成功した。2では、低温・高圧下のNI転移近傍における誘電率の変化を詳細に調べることに成功した。特に低温側に位置する相転移近傍では、従来型錯体がNI転移近傍で示すものとは質的に異なった特異な振舞が観測された。得られた実験結果の解析にもとづき、基底状態間の量子的な揺らぎとの関連について議論した。3では、室温において、中性相からイオン性相へと近づくとともに磁気的応答の顕著な増大を観測することに成功した。この結果は、転移近傍において中性相内に大きなイオン性ドメインが成長していることを示唆している。

研究成果

• [文献書誌] T. Hasegawa: "Neutral-ionic phase transition of (BEDT-TTF)(ClMeTCNQ) under pressure"PHYSICAL REVIEW B. 64. 085106 (2001)
• [文献書誌] K. Hiraki: "Electronic states of novel donor/acceptor type of organic superconductor, (BETS)_2(Cl_2TCNQ)"JOURNAL OF PHYSICS AND CHEMISTRY OF SOLIDS. 62. 401-403 (2001)
• [文献書誌] R. Kondo: "Superconductivity and metal-insulator transition in twin-columnar organic superconductor, (BETS)_2(Cl_2TCNQ) [X=Cl, Br]"JOURNAL OF THE PHYSICAL SOCIETY OF JAPAN. 70. 3023-3030 (2001)
• [文献書誌] T. Hasegawa: "Donor-acceptor-type complexes of (BEDT-TTF)(TCNQ) analogues : Peculiar magnetic transition in (BEDO-TTF)(Cl_2TCNQ)"SYNTHETIC METALS. 120. 991-992 (2001)
• [文献書誌] R. Kondo: "Metal-insulator transition in donor-acceptor type superconductor, (BETS)_2(Cl_2TCNQ)"SYNTHETIC METALS. 120. 995-996 (2001)
• [文献書誌] K. Hiraki: "Electronic properties of novel donor-acceptor type charge transfer complexes, (BETS)_2(Cl_2TCNQ) (X=Cl, Br) : H-1, Se-77 and C-13-NMR"SYNTHETIC METALS. 120. 917-918 (2001)