研究概要 |
擬一次元ハロゲン架橋金属錯体(MX系)は、スピン密度波(SDW)や電荷密度波(CDW)などの多様な電子相やソリトン、ポーラロン等の非線形素励起の生成する系として、導電性高分子と共に擬一次元物質の研究上重要な役割を果たしている。我々は電子スピン共鳴(ESR)がMX系の磁性イオン(M^<3+>)の検出に優れた手法であることを示してきたが、これまでは定常的な測定に限られてきた。本研究の目的は、時間分解光励起ESRを整備し、MX系の素励起の検出や、競合する2つの電子相の光制御などを研究する新しい手法として開発、適用することである。 本研究では第一に時間分解光励起ESRの開発、整備を行い、CDW基底状態を持つMX系の素励起の研究を行った。Pd(chxn)_2Br_3では低温で光生成スピン種の検出に成功し、その過渡応答時間は温度に依存して数分から数十分程度となった。そして励起光強度依存性や励起スペクトルの測定も行い、過渡応答特性の結果と合わせて解析を進めた結果、光生成種はソリトン励起が支配的であると解釈された。また[Pt(en)_2][Pt(en)_2X_2](ClO_4)_4(X=Cl,I)についてもLESRの励起スペクトルを得ることに成功し、それぞれソリトンやポーラロンの励起に帰属され、光誘起吸収などの結果と対応した。 本研究では第二に電子相が競合するMX混晶系Ni_<1-x>Pd_x(chxn)_2X_3やNi<1-x>Co_x(chxn)_2X_3についてESR測定を行い、SDW相やCDW相の電子相の研究や、電子相へのハロゲン元素の置換効果をX=Cl,Brを用いて研究した。また単結晶に電極を取り付けて圧力下での電気抵抗、熱電能測定を行い、キャリア特性も調べた。さらにMX系の発展系であるMMX系についてもESR測定を行い、平均原子価相やCDW相の検出と、交互電荷分極相におけるソリトン励起の検出に初めて成功した。
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