(1).共鳴励起型STM装置の製作 低温において共鳴励起した状態でのSTM測定およびSTMによるトンネル発光スペクトル空間マッピング測定が可能な低温型光学顕微分光トンネル顕微鏡を製作を行った。トンネル発光の集光系としてレンズをSTM装置内に設置し、真空装置外部に設置した光学系とあわせて集光し、光ファイバーで分光器へ導入して検出できるようにした。またSTM、STS制御装置とトンネル発光の光学測定装置の通信同期を行い、これによりSTMによる構造像、STSによる局所状態密度、トンネル発光の3つの同時測定を可能にした。 (2).有機分子薄膜のトンネル発光スペクトル空間分布測定 共鳴励起状態の局所状態分布を測定するための基礎研究として、金(111)表面上の有機分子(アルカンチオール)薄膜の共鳴励起状態を明らかにするために、STMによるトンネル発光スペクトルを測定した。今年度は、チオール基を二個有するオクタンジチオール薄膜のトンネル発光スペクトルと吸着による局所電子状態密度の相関を明らかにするために、STSとトンネル発光スペクトル空間マッピングの同時測定を液体窒素温度で行った。この測定を清浄Au(111)表面に対する結果と比較した。これにより吸着により、発光スペクトルは長波長側にシフトし、また長波長側に発光強度が増大することを示した。この変化は、STSにより求めた状態密度変化、すなわち、フェルミレベル近傍での状態密度の減少、0.2eV以上での増大とよく対応していることがわかった。これによりAu(111)上オクタンジチオール薄膜のトンネル発光変化は、吸着表面の局所状態密度変化によることを明らかにした。
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