研究概要 |
強相関5f電子系の典型物質であるURu_2Si_2の低温電子状態を解明することが本研究の第一目標である.その鍵を握ると予想される「圧力下で発生する磁性・非磁性競合状態」を幾つかの側面から研究し,以下の成果を得た.(1)反強磁性状態の一軸応力依存性を中性子散乱実験によって調べ,4回対称性を低下させる歪みもしくは正方晶主軸を延ばす歪みに対して反強磁性が著しく増強される事を明らかにした.また,同実験を異なる加圧冷却条件で繰り返し,誘起反強磁性が圧力に対して履歴現象を示すことを明らかにした.このことから少なくとも低温高圧下においては,この物質の電子状態が磁性・非磁性2相の非平衡共存状態にあることがわかり,理論設定に対する条件を狭めることができた.(2)高圧下でミュオンスピン緩和(μSR)実験を行い,競合状態の発生というNMRによるこれまでの結果を支持する結果を得た.しかし,詳しい圧力・温度依存性には食い違いがあり,新たな相境界の存在もしくは強い試料依存性の存在を示唆する.またNMRでは見つかっていない,不均一反強磁性相の臨界揺らぎに対応すると思われる信号を観測した.(3)RuサイトをRhで少量置換することにより,高圧下と同様に反強磁性状態が著しく増強されることを中性子散乱実験より見出した.圧力セルを要しないので中性子非弾性散乱実験を容易に行うことができ,隠れた秩序に付随して発生する磁気励起を研究するためのよい実験対象が得られた.(4)同型でかつ非クラマース電子配置をもつ対照物質を得るためにTm化合物を探索し,TmCo_2Si_2において反強四極子相関と反強磁性相関の競合によると思われる秩序相を見出した.混成多体効果は小さいと考えられるので,強相関電子系の軌道自由度の役割を議論する上で局在極限領域の典型例を与えるものとして興味がもたれる.
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