強相関5f電子系の最重要課題であるURu_2Si_2の低温電子状態に焦点を絞り、様々な実験的研究を展開した。この系の低温秩序相の起源、およびそれと密接に関係する超伝導状態、メタ磁性について多くの新たな情報を得、金属中における5f電子物性の理解の進展に貢献した。具体的な成果を以下に列挙する。1.高圧下における中性子散乱およびNMR、μSR実験から、この系の未知秩序状態に静水圧下で反強磁性(AF)秩序が1次転移で誘起され、広い圧力-温度領域で2相分離現象が起こることを見出した。2.一軸応力下中性子散乱実験から、この反強磁性誘起が軸性歪みc/aの僅かな増加に起因することを指摘し、長年の論争であったこの系の微弱磁性の本質が結晶の不完全性によって生じたAF相の「島」であり、系の低温物性は未知の「隠れた秩序(HO)」により支配されていることを示した。3.RuのRh置換(化学圧力効果)によってもHO-AF転移が起こることを確認するとともに、圧力容器無しで相競合を調べられる利点を生かし、相転移に伴う磁化・比熱の振る舞い、磁気励起の消滅過程の詳細を明らかにした。4.メタ磁性のRh濃度依存性を調べ、複数の強磁場相と弱磁場相との関係を明らかにした。5.高圧下極低温精密磁化測定システムを立ちあげ、HO-AF相競合の発達による超伝導特性の変化を調べた結果、磁性相分離の発達は超伝導の凝集エネルギーを減少させるが、超伝導体積率にはほとんど影響を与えないことが分かった。超伝導にのみ寄与するフェルミ面が存在するという5f電子状態の双対性発現の可能性を実験的に示した。本課題およびこれに関連する研究の成果は、学術論文26編として公表するとともに、アメリカ物理学会をはじめとする国際学会等で、9件の招待講演を含む学術講演として公表した。
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