研究概要 |
銅酸化物高温超電導体では、T_cより高温からk空間の(π,0)、(0,π)近傍のフェルミ面に"小さな擬ギャップ"が成長し、T_c付近ではフェルミ面は(π/2,π/2)近傍を中心とするアーク状(フェルミアーク)となる。このフェルミアーク上のキャリアーは大きな面内易動度を持っているため、フェルミアークはコヒーレントなクーパー対の運動、すなわち超伝導の発現との関連で大きな興味が持たれている。我々は、これまでにLa214系について小さな擬ギャップ、超伝導状態のエネルギーギャップΔ_0、凝集エネルギーU(0)を詳しく調べ、小さな擬ギャップが成長すると共に超伝導の凝集エネルギーU(0)が大きく減少することを確認した。そして、T_cとΔ_0との関係から、小さな擬ギャップが成長すると超伝導の特性エネルギーがΔ_0からβpΔ_0(β=constでpはホール濃度)に変わることでU(0)の大きな減少が説明できることを指摘した。また、超伝導の特性エネルギーの変化は、小さな擬ギャップの成長によって形成されるフェルミアークと関連していることを提案した。しかし、小さな擬ギャップの成長が顕著となるアンダードープ領域では超伝導相と常伝導相との相分離が起こり、このためU(0)が大きく減少するとの指摘がある。そこで本年度は、Bi2212系の走査トンネル分光(STM/STS)実験から超伝導の一様性をナノスケールで詳しく調べた。その結果、T_cはまだ十分高いがU(0)は大きく減少する少しアンダードープ域では、超伝導相と常伝導相との相分離は見られないことを明らかにした。この結果から、擬ギャップ領域でクーパー対のコヒーレントな運動、すなわち超伝導をもたらすのはフェルミアークであることを結論した。
|