超伝導ギャップの異方性をフェルミ面に画像化することを目標として、装置開発および、プロトタイプとなる物質の結晶育成に取り組んだ。その結果、以下の成果を得ることができた。 1.装置開発:高い分解能を持つ超音波吸収測定装置を開発した。この装置により、10MHz〜200MHzの広い周波数範囲における吸収係数の測定が可能となった。さらに、希釈冷凍機システムを導入することで、低い超伝導転移温度を持つ物質への本手法の適用が可能となった。 2.単結晶育成:超音波測定に必要となる大型で高品質な単結晶の育成をおこなった。育成に成功した物質は、ホウ炭化物超伝導体YNi_2B_2C、重い電子系超伝導体CeCoIn_5、遍歴電子弱強磁性超伝導体とされているZrZn_2、層状カルコゲナイドNbSe_2である。 3.YNi_2B_2Cの超伝導ギャップ異方性:超音波吸収測定を進め、データ解析に必要となる全弾性モードの測定を完了した。この結果、特に縦波弾性モードが顕著な異方性を示した。すなわち、[100]方向の縦波モードの吸収係数がT^1の温度依存を示し、[110]および[001]方向の縦波モードはT^3のべきの温度依存性を示した。この結果は、[100]方向に多くの準粒子励起が存在し、[110]および[001]方向の準粒子励起は少ないことを示しており、超伝導ギャップが[100]および[010]方向にゼロ、すなわちノードを持つことを意味している。 この結果は、古い測定手法と認識されていた超音波吸収測定の、新たな側面を切り開いたもので、全弾性モードの吸収係数の解析より、超伝導ギャップの異方性をフェルミ面上にマッピングできることを初めて示したものである。 また、得られた単結晶試料は、国内外における共同研究に供し、角度分解光電子分光、比熱などにおいて成果を上げている。
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