研究概要 |
銅酸化物において高温超伝導が出現するのは,キャリア濃度が狭いある領域に限定されている。境界領域で超伝導が消える様子を調べることによって,超伝導の発現条件を明らかにし,電子論的機構に迫るのがこの研究の目的である。本年度は,具体的に次の項目に重点をおいて実験を進めた。(1)LSCO(La_<2-x>Sr_xCuO_4)およびNCCO(Nd_<2-x>Ce_xCuO_4)の単結晶試料育成,(2)常圧下での電気伝導と磁化率測定,(3)圧力下での電気抵抗測定,(4)LSCOの磁気抵抗を低温圧力下比熱測定の開始。以下に本年度の研究成果をまとめる。 1)広いSr濃度でLSCOの単結晶育成のノウハウはほぼ把握し,単一ドメインのNCCO単結晶の育成と還元処理の条件をつかむこともなんとか見通しがついた。 2)得られたLSCO試料で,常圧及び圧力下で超伝導転移点T_cを測定し,正方晶相の相図をまとめる。低濃度側の超伝導境界において不連続性を観測した。 3)異方的圧力効果を利用してLSCOの超伝導常-伝導転移に近づき,常伝導抵抗の振る舞いを調べた。T_cの低下にともないキャリアの局在化を示唆する常伝導抵抗の上昇が見られ,磁場や不純物効果で見られる抵抗上昇と類似性が認められた。 4)NCCOにおいては,過剰酸素が残っている試料とほぼ完全に取り去った試料との間に大きな振る舞い差が認められた。前者は,T_cが低く(15K以下)圧力効果が大きい。後者は,T_cが高く,圧力効果がほとんどない。常伝導抵抗も前者はキャリアの局在を示唆するような低温における上昇が見られた。これは頂点酸素がCuに近づく効果と解釈できる。LSCOについてはその他にも,非超伝導領域での擬ギャップの観測,中性子による構造転移の動的解析,超音波により一軸性圧力効果を測定した類似結晶構造をもつSr_2RuO_4との比較などを行い,今後の研究の指標を得た。
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