研究概要 |
強光子場(〜1PW/cm^2)中の分子は,光子場との強い相互作用によって多重イオン化し,クーロン爆発を起こすことが知られている.本研究では、コインシデンス運動量画像(CMI)法を用いて,単一の親分子イオンから生成したすべての原子イオンを同時検出し、さらにそれぞれのイオンが持つ運動量を決定することによって、強光子場における3原子分子のクーロン爆発過程を調べた. 高強度超短レーザーパルスを集光して得られた強光子場との相互作用によって,CS_2,CO_2,N_2O等の3原子分子から生成したフラグメントイオンを位置敏感型イオン検出器を用いて観測した.それぞれのフラグメントイオンの持つ運動量は,検出器上での位置および飛行時間からクーロン爆発事象ごとに決定した. 強光子場(0.36PW/cm^2,60fs)におけるクーロン爆発過程<CS_2>^<3+>→S^++C^++S^+,によって生成したS^+,C^+イオンの運動量ベクトルp_1(S^+),p_2(S^+),p_3(C^+)をCMI法によって測定した.これらの運動量ベクトルに対して定義された角度パラメータχおよびθをプロットした運動量相関図には.「協奏的」3体爆発過程に対応するχ=90°近辺の強い分布の他に,「段階的」過程に対応する2本の腕状の分布が明確に観測された.図に示すように,この腕状の分布は準安定CS^<2+>分子の自由回転を考慮した古典モデルに基づいて理解することができ,CS^<2+>の寿命がその回転周期(〜10ps)に比べて十分に長いことが明らかとなった.これは,S^+-CS^<2+>間距離が1μm以上離れてから最終的な3体解離が起こることを示している. また,「協奏的」3体爆発過程によって生成したS^+およびC^+の運動量ベクトルの平均値<p_1(S^+)>,<p_2(S^+)>,<p_3(C^+)>から,クーロンポテンシャルを仮定した古典計算に基づいて,クーロン爆発直前のCS_2^<3+>の構造決定を行った.その結果,C-S結合距離としてr〜2.5(1)Åが得られ,CS_2X^1Σ_g^+状態のr0=1.555Åよりも1.61倍長いC-S結合距離を持つことが見いだされた.また分子軸周りの方位角平均をとったS-C-S結合角として<γ>=150(1)°が得られた.これは変角零点振動を考慮に入れたCS_2X^1<Σ_g>^+状態の値<γ>=174.5°と比べて小さく,クーロン爆発直前の<CS_2>^<3+>が屈曲座標方向に大きく変形した構造を持つことが明らかになった.
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