紅色光合成細菌中に存在する光受容性蛋白質:Photoactive Yellow Protein(PYP)は、可視光を吸収すると、フェムト秒(8160)16数百ミリ秒の時間領域で段階的に複数の中間体を経て、最終的にもとの暗状態に戻る「光反応サイクル」を示す。PYPは比較的低分子量の水溶性蛋白質であり、高次構造が高分解能で解析されている。そのため、生体の可視光受容とその伝達メカニズムを明らかにする上で、格好の蛋白質として期待されている。光カーシャッターを用いた時間分解蛍光分光法によって、光反応サイクルの初期過程を詳細に測定し、その全体像(時間-周波数マップ)をはじめて明らかにした。蛍光スペクトルの中心波長・強度が、励起後の時間発展とともに振動する様子が明瞭に観測された。 本年度は、1) 時間分解蛍光分光装置の性能の向上、 2) 時間領域THz波分光装置の開発を並列して進め、 1) に関連して、蛋白質ダイナミクスが注目される系での時間分解蛍光スペクトル測定を行い、上記の結果を得た。当初、測定のダイナミクスを向上させるために、極超短パルスレーザを製作する予定であった。しかし、システムの改良により、数百フェムト秒の振動構造という注目すべき現象を捉えることに成功した。そこで、その時点で問題となった背景信号の除去に方針を切り替え、超高速イメージインテンシファイアによる時間ゲートを併用するため、関連装置を導入した。
|