研究概要 |
結晶中をチャネリングする高速イオンは、結晶の周期ポテンシャルを、振動電磁場として感じ得る。もし、この振動数に耐応するエネルギーがイオンの内部構造の励起エネルギーに一致すれば、イオンの共鳴的な励起が期待され干渉性共鳴励起と呼ばれている。我々は、放射線医学総合研究所の重イオン加速器(HIMAC)において、数1OGeVという相対論的エネルギーの重イオンビームを用いて、従来の分解能を全く一新する干渉性共鳴励起の観測に成功している。相対論的エネルギーの重イオンビームを用いたために、非常に高いコヒーレンスが達成され共鳴幅が先鋭化する。これらに基づいて、今までの精度および統計をさらに向上させる実験装置の導入および新たなビーム開発により、我々はチャネリング下の干渉性共鳴励起という特異な現象を活かした多価重イオンの精密原子分光を目的とした実験を行う。 本年度は具体的には、H-like Ar^<17+>イオンによって干渉性共鳴励起の観察を行い、その2P_<3/2>のピーク位置によって,入射ビームエネルギーを決定した。その後He-likeAr^<16+>の干渉性共鳴励起を行い2^1P,2^3P準位への励起を観測した。また同様の測定をFeイオンに対しても行った。その結果,Arの場合3139.27+/-0.15eV(2^1P),3123.30+/-0.16eV(2^3P)Feの場合6700.22+/-0.16eV(2^1P),6667.52+/-0.17eV(2^3P)という値が得られた。Feイオンの場合は得られた遷移エネルギーはほぼ理論値と一致したが,Arイオンの場合は理論値よりO.3eVほど小さい値がえられた。これは今回のようにイオンの出射角度を制限するだけでは、結晶中の振幅の大きい軌道の寄与を完全に取り除くことができなかったため結晶中の静電場によるスタルク効果が寄与していることが原因と考えられる。そこで次年度では結晶にSi検出器を使うことによってイオンの結晶に対する付与エネルギーから厳密に軌道を制限することを予定している。
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