研究概要 |
環状ペプチドの自己積層により形成される蛋白質ナノチューブは、構成アミノ酸の残基修飾が可能な新奇ナノバイオ物質として非常に興味深い。本申請課題では、蛋白質ナノチューブの構造多様性に注目し、系の取り得る可能な骨格構造の理論探索を数理構造解析並びに非経験的エネルギー計算により試みた。その結果、内径の異なる多様なリング構造の存在や、同一員環数においても異なる2種類のリング骨格[Extended型(E型)とBound型(B型)]の存在が理論予測された。また20種全てのアミノ酸残基修飾に対する全エネルギー計算も行い、エネルギー的により好ましいリング骨格型が各アミノ酸の側鎖種類に応じて異なることが明らかとなった。更にこれら2種類のリング骨格はどちらも水素結合を介して凝集し、E型及びB型ナノチューブを形成することが理論予測された。 一方、電子論的にはペプチドリング及びナノチューブ骨格のHOMOとLUMOはE型、B型共にリング面内π軌道によって形成される。これらの骨格エネルギー準位に加え、各側鎖に局在したエネルギー準位がアミノにより系内に挿入される。とりわけ芳香族員環を側鎖に有するアミノ酸の残基修飾は側鎖のπ電子準位をエネルギーギャップ内に挿入し、新たなフロンティア軌道を形成する。そのためこれらの官能基は外部物質との反応部位となる可能性や、新規電子・光物性を発現する可能性を含んでいると考えられる。 以上の理論的研究に加え、アミノ酸の種類や数の異なる次の4種類の蛋白質ナノチューブ合成にも成功した;cyclo[-(D-A-L-Q)4],cyclo [-(D-A-L-Q)3],cyclo[-(D-C-L-Q)3],cyclo[-(L-Q)5]。更に合成したナノチューブのAFM観察にもチャレンジし、アミノ酸の種類や数の相違がナノチューブの自己組織化形状に与える影響についても検討した。
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