研究概要 |
数個のアミノ酸連鎖から成る環状ペプチド「ペプチドナノリング」やその自己積層構造「ペプチドナノチューブ」は幅広い応用可能性を持つ新奇ナノ物資として注目を集めている。本研究ではこれらナノ蛋白質の分子設計を目的に、構成アミノ酸修飾によって得られる多様なナノリング及びナノチューブの分子構造や電子状態の体系的理解を試みた。初めに数理構造解析手法を用い、D体、L体アミノ酸交互連鎖(D,Lペプチド)及びL体のみのアミノ酸連鎖(ホモLペプチド)の敗り得る骨格構造の理論探索を行った。その結果、D,Lペプチドでは6残基以上の偶数残基リングが可能であること、またE型とB型という2種類のリング骨格が存在することを示した。一方、ホモLペプチドでは基本的に右巻き及び左巻き螺旋が形成されるが、その境界に新規5残基リングの可能性を見出した。続いて非経験的エネルギー計算を行い、8残基以下のD,LペプチドリングはB型骨格を好むのに対し、10残基以上のリングはE型骨格を好むことを明らかにした。またこれらD,Lペプチドリングは対称性を保存して積層し、その結果真直なナノチューブを形成することを予測した。一方、ホモLペプチドリングは5回軸を崩して安定化し、その結果湾曲したナノチューブを形成することを理論的に示した。次に実際に6残基及び8残基D,Lペプチドナノチューブの合成を行うと共に、今回初めてL体アミノ酸のみの5残基ナノチューブの合成にも成功した。更に原子間力顕微鏡観察を行い、D,Lペプチドナノチューブが真直なナノチューブ単分子のみならず、ナノオーダーやマイクロオーダーのバンドルまでをも形成することを示した。一方、ホモL5残基ナノチューブは湾曲したチューブ形状を敗ることが確認され、理論計算との定性的な一致が見られた。以上の成果はペプチドナノチューブの単分子操作や物性測定への足掛かりとなるものと思われる。
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