研究概要 |
本研究は氷床氷中の不純物の挙動と結晶粒界移動への影響を実験的に明らかにし、その結果を申請者が開発した結晶組織発達シミュレーションに組み込むことにより、氷床コアの結晶組織データから過去の氷床流動と気候変動の情報を抽出する手法を確立することを目的としている。13年度は低濃度(数十から数百ppb)の各種水溶性不純物(Na, Ca, Mg,Cl,F, Cl, NO_3, SO_4等)および固体微粒子(SiO_2)を含む人工多結晶氷を用いて結晶粒成長速度の温度依存性および不純物濃度依存性を明らかにしたが、14年度はさらに研究を発展させ次の成果を得た。 1.SiO_2を種々の濃度(0.1〜5%)含有する人工多結晶氷を用いて種々の定ひずみ速度(10^<-6>から10^<-5>s^<-1>)で変形実験を行った結果、高歪速度ではSiO_2は氷を軟化させ、低歪速度では氷を硬化させる効果があることが明らかとなった。また変形組織解析から固体微粒子は結晶粒成長を阻止するとともに変形集合組織の発達にも影響を及ぼすことが明らかとなった。 2.変形中の個々の結晶粒内の変形挙動をその場観察し、小角粒界形成プロセスとそれに伴う結晶方位変化について多くの貴重な知見を得た。これにより結晶組織発達シミュレーションをさらに精度の高いものにすることができる。さらに変形に伴う含有気泡の変形挙動をその場観察し、その実験結果と変形理論から氷床コア中の気泡伸長方位分布の変動モデルを構築した。今後このモデルと結晶組織発達モデルを組み合わせることにより、氷床コアの結晶データおよび気泡データから過去の氷床流動と気候変動の情報を抽出する総合モデルシミュレーションを行う。
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