研究概要 |
海底におけるガンマ線計測は,「しんかい2000」「しんかい6500」「ドルフィン3K」などを用いてこれまでに多数のデータが得られており,その地質学的背景との関係が議諭されている.しかし,潜水艇に搭載された機器による計測のため,比較的短時間の測定に限られ,また潜水艇自体による海底の擾乱作用の影響も考慮しなくてはならない.本研究では,自己記録式のガンマ線計測装置(GRAMS)を作製し,平成14年3月末に相模湾初島沖のシロウリガイコロニー近傍の赤褐色バクテリアマット域において観測試験を行った.測定間隔の設定ミスによる一部欠落があるものの約2日間のデータが得られた.GRAMSで得られたデータは,設置直後から安定した値が得られており,潜水艇・無人探査機による通常のガンマ線計測に比較して,センサと海底との距離の違いや着底作業による海底の擾乱の影響を除外した,より定量的な計測が可能であると言える.ガンマ線強度と放射性核種の濃度はいずれもほぼ一定値を示すことが明らかになった.これまでの海底温度観測では,潮汐による半日周期の変動が報告されているため,ガンマ線強度は湧水自体よりはむしろ,湧水によって海底付近に蓄積された放射線核種の濃度に影響されている可能性が高い. 平成14年6月に行われた海洋科学技術センターの「しんかい6500」を用いた海底調査では、既にガンマ線強度の正の異常の認められている熊野沖南海トラフ付加プリズムの断層崖においてガンマ線の面的な測定を行った.断層崖に沿った湧水地点でのガンマ線強度,トリウム系列・ウラン系列の放射性核種の濃度は,測定点ごとに大きな差があるものの,湧水の兆候のない地点と比較するとそれぞれ有意に高い値を示した.特に,ウラン系列の濃度がトリウム系列の濃度より大きい点が注目される.断層帯に沿って付加プリズム内から湧出する流体の影響が示唆される.
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