研究概要 |
深海底におけるガンマ線計測は,潜水艇・無人探査機などを用いてこれまでに多数のデータが得られており,地質学的背景との関係が議論されている.しかし,船体に搭載された機器による計測のため,比較的短時間の測定に限られ,また潜水艇自体による海底の擾乱作用の影響も考慮しなくてはならない.本研究において作製したGRAMSはバッテリー稼働する自己記録式のガンマ線計測装置であり,相模湾初島沖における作動試験の後,熊野沖南海トラフの活断層周辺における集中観測を行った.熊野沖では,1944年の東南海地震の想定断層面に沿ったすべり量の大きな領域が海溝底付近まで伸びていると推定されている.この海域で最も大きな断層崖を形成する順序外スラスト近傍では,間隙流体の低塩素イオン濃度異常と高ガンマ線強度異常が発見されており,断層に沿った流体湧出の研究に最も適した地点である.また,長期温度計測装置が設置され,約1年間の観測の結果,周囲より高い熱流量が計測され,活発な流体湧出が実証された.同地点でのGRAMSを用いた12日間の海底ガンマ線計測では,ウラン系列の放射性核種の高濃度異常が観測されたが,期間内での値の変動は認められなかった.すなわち,短時間のガンマ線測定においても,その場に固有の値が観測できる確証を本研究によって得られた.そこで,熊野沖の付加プリズム前縁部から前弧海盆域にわたる広い範囲での計測データをまとめ,放射性核種濃度分布図を作成した.その結果,00STが海底面に達すると予想される狭い領域に限りウラン系列の放射性核種の高濃度異常が捉えられた.付加プリズム斜面や前弧海盆の他の断層とは異なり,高ウラン濃度異常が得られた原因としては,00STでは堆積層から排出された流体による希釈が小さく,比較的深部の断層の破壊に由来する流体が影響している可能性が考えられる.
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