初期生命体の進化のみならず、生命体の発生場も海底熱水域に求める考えが普及してきている。その場合、Archean時代の海底熱水系が生命起源の場であり、火山性ガスからの有機体合成反応や、そこから派生した始源的生物の活動や初期進化の痕跡が熱水性堆積物の中に残されている可能性がある。しかしこれらの問題は、地質学的には検証されてきていない。そこで本研究ではArchean時代の海底熱水に関連した環境で生息する微生物の痕跡を見出し、安定同位体分析を中心にそれらの生態系を明らかにし、熱水の無機成分との関連、グローバルな生態系に対する考察を行う事を主目的にして研究を行ってきた。始生代海底熱水に直接関係した地域として、カナダ・アビティビ・グリーンストーン帯およびオーストラリア・ピルバラ地域を設定した。地質調査を長瀬敏郎博士および東北大学の学生と行った。その他、Archean時代の岩石で海底熱水活動の兆候を示す試料や比較の為に現世の熱水性堆積物も広範に分析した。その結果、二酸化炭素に富んだ海底熱水系が引き起こす特異な熱水変質、それに伴う特異なリンの挙動、マグマ活動に伴って海洋に放出されるメタンを巧みに用いる微生物活動生態系、海底熱水活動によって有機物中にCuなどが濃集し酵素の前駆体を作るプロセスなどが明らかになった。特に世界最古の海底熱水鉱床から抽出された有機物(微生物死骸)からモリブデンや亜鉛の濃集を見いだし、熱水から放出される金属を巧みに用いる微生物活動の姿が具体化された。微生物共存系で熱水中での新規エネルギー獲得システムが現世熱水系試料から見つかり、Archean生態系へのヒントになった。これらの成果は既に幾つかの学術雑誌に掲載されている。国際学会での招待講演も行ってきており研究成果の重要性を物語る。更に、現世の熱水性微生物の研究成果も加え、初期地球環境における微生物進化と海底熱水(火山活動)に関する新しい仮説を提唱するに至った。
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