研究概要 |
平成15年度に得られた主な成果は以下の通りである. i.2001年7〜8月に西部北太平洋亜寒帯域において行われた,北太平洋で初めての鉄散布実験(SEEDS2001)に参加し,植物プランクトンの光合成活性,群集組成ならびに微量金属元素濃度の観測を行った.この試料の分析と結果の解析を完了し,論文を作成した.実験海域では鉄散布前の溶存鉄濃度は0.1nM以下であったが,反応性粒子態鉄濃度は約5nMであった.この粒子態鉄はおそらく大気から塵として供給されたものであるが,植物プランクトンにとって利用しにくい化学形であったと考えられる.すなわち,植物プランクトンへの効果は,鉄の濃度だけでなく化学形に強く依存することがわかった.また,溶存Co,Ni,Cu,Zn,Cd濃度の減少を見いだした.外洋において植物プランクトンの増殖時にこれらの濃度が変化することが見いだされたのは,これが最初である.金属元素の減少量比は植物プランクトンの組成比とほぼ一致していることから,これらの金属は植物プランクトンに取り込まれたと推定される. ii.2003年度独立行政法人水産総合研究センター若鷹丸第一次航海WK0304(2003年4月11日〜4月25日)に参加し,親潮域および黒潮・親潮混合域における珪藻類による春季ブルーム期の植物プランクトンの光合成に関する生理状態を観測した. iii.その他,東部北太平洋亜寒帯域における鉄濃度調節実験の試料分析を行った.海洋科学技術センター研究船みらいの西部北太平洋亜寒帯域航海,東京大学海洋研究所研究船白鳳丸の東部南太平洋航海に参加し,海水試料の採取,前処理と観測を実施した. iv.培養植物プランクトンを用いて,鉄欠乏状態における植物プランクトンからRNAを分離精製する手法を確立した.また,鉄欠乏下において,細胞膜で生じる外膜タンパク質の組成変化を見い出した.
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