研究概要 |
国内外の博物館,研究所等から入手した地球外物質の中から,今年度は分化した隕石を中心に分析をおこなった。研究代表者である日高は,分化した隕石である火星隕石10種,エンスタタイトエコンドライト隕石5種について化学的前処理を施し,Sm, Gdを元素分離し,表面電離型質量分析計による精密同位体測定を行った。その結果,玄武岩質の火星限石4種およびすべてのエンスタタイトエコンドライト隕石から宇宙線照射の影響による中性子捕獲効果に基づく同位体比変動が認められた。研究分担者である三浦は,Sm-Gd同位体測定を行ったものと同一試料の一部についてNe, Ar, Kr, Xeの一連の希ガス同位体測定を行った。希ガス同位体組成には宇宙線による核破砕反応の影響による同位体変動も大きく認められるため今後さらに詳細な解析が必要であるが,エンスタタイトエコンドライト隕石については中性子捕獲効果が明らかに認められ,Sm-Gd同位体系に基づく結果とよい一致を示した。また,希ガス同位体データから得られる宇宙線の照射年代とSm-Gd同位体データから得られる被中性子照射量の間には必ずしも相関は認められなかった。上記データを総合的に解釈すると,玄武岩質火星隕石は火星大陸地殻上部に位置していた際に受けた中性子捕獲効果を,エンスタタイトエコンドライト隕石はその母天体形成前のレゴリスの集積時に受けた中性子捕獲効果をそれぞれ反映していると考えられる。さらに,同一試料の一部を海外共同研究者である西泉に送付しており,現在,加速器質量分析計を用いた宇宙線生成核種の測定が行われている。
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