研究概要 |
今年度は分化した隕石であるエンスタタイトエコンドライトPesyanoe隕石および未分化な隕石であるH4コンドライト隕石Jilinに着目して研究を行った。Pesyanoe隕石の岩石組織中には臭なる二つのクラストが含まれており,一般にlight matter, dark matterと呼ばれている(Muller and Zahringer,1966;Lorenzetti et al., 2003)。本研究ではPesyanoe隕石から,light matter2,dark matter1種,エンスタタイト1種,マトリックス部2種の計6程を採りだし,各々について化学的前処理を施し,Sm, Gdを元素分離し,表面電離型質量分析計による精密同位体測定を行った。Sm, Gdの同位体変動から見積もられる宇宙線照射による中性子フルエンスは,(2.2〜2.9)×10^<16>n/cm^2であった。このように,同一塊内において見られる最大約1.3倍もの範囲にわたる中性子フルエンスの不均一性は,隕石母天休形成の初期段階におけるレゴリス過程での宇宙線照射の影響によると推測される。さらにSmとGdの同位体データを組み合わせて得られる熟中性子ニネルギーに関するパラメータにも各々の試料において顕著な違いが見いだされることから,エンスタタイトコンドライト形成時のレゴリス過程における照射の履歴を反映しているものと考えられる。今後,同一試料についてHe, Ne, Kr, Xe等の一連の希ガス同位体の測定を行い,その統一的な解釈を試みる予定である。 一方,コンドライト隕石Jilinについては,巨径約1.5メートルの隕石から採りだされたコア試料について海外共同研究者である西泉が加速器質量分析計を用いた宇宙線生成核種の測定を終えている。本研究では西泉が測定したものと同一部位から採取された試料についてSm, Gd同位体測定を行うための化学処理を一部終えた段階である。残りの化学処理および測定は引き続いて来年度に行う予定である。
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