研究概要 |
本研究は、二連の超短光パルスを用いて、分子振動波束の生成とその位相制御を行うことを目的として行った。対象系として、超音速ジェット中に生成した極低温の二原子分子(HgArヴァン・デル・ワールス錯体)を選択し、時間幅約300フェムト秒(1フェムト秒=10-15秒)、中心波長約254ナノメートルのレーザーパルスをこの分子に照射し、最低位の励起電子状態(A状態)のポテンシャル井戸の中に、三つの振動固有状態(v=3,4,5)の重ね合わせからなる振動量子波束を生成する。二つの光パルスが生成する二つの量子波束の干渉の結果を、第三レーザーパルスによってプローブする。二つのレーザーパルス間の相対位相を約10アト秒(1アト秒=10-18秒)の精度で操作する「アト秒位相調節器」を開発したことが本研究の核心部分である。この位相調節器から出力する二連の光パルスによってHgAr分子のA状態に生成した二つの振動量子波束(自動相関)の結果、A状態における三つの振動準位の確率分布が、アト秒精度で制御されたパルス間遅延時間の関数として制限波状の変調(ラムゼイ変調)を示すことを観測し、隣接準位間のラムゼイ変調位相差を任意に制御できることを示した。観測された量子干渉は、これまでに報告例がないほどの極めて高い(ほぼ100%に近い)干渉コントラストと安全性を示した。また、HgAr分子の電子状態に関する正確な分光学的データに基づいて、本実験における量子波束の形成と制御に関するシミュレーション計算を行い、この分子における波束制御の原理の解釈、及び制御された種々の波束モードの視覚化に役立てた。
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