研究概要 |
分子軌道法を用いて信頼性の高い結果を得るには、高精度の電子相関理論と大規模な基底関数の両方が不可欠である事が知られている。これは、電子の動的相関に伴うクーロン孔に対する一電子関数の積和による記述が極めてゆっくりとしか収束しない事に起因している。相似変換によりポテンシャルの発散を取り除かれた有効ハミルトニアンを用いた分子軌道プログラムの開発を行った。相関因子の指数部は、短距離でKatoのカスプ条件を満たし、長距離では急速に減衰する性質をもっている。この様な相関因子を用いる事により、短距離相関の記述に必要な高い角運動量指数を含む基底関数が露には必要と無くなり、相関誤差を大幅に減少させる事が出来るというのが本手法の本質である。昨年度開発された擬軌道と双直交基底による二次の摂動論に加え、本年度は、線形化された短参照結合クラスター理論と多参照摂動理論のプログラム開発を行った。代表的な10電子系(CH_4,NH_3,H_2O,HF,Ne)についても同様の計算を行った所、全ての場合に全エネルギーで2-3kcal/mol誤差内の結果を得る事が出来た。反応熱や励起エネルギーのようにエネルギー差を問題にする場合には、相関誤差は更に一桁減少するものと予想される。これまで開発を行ってきた方法は、通常の分子軌道理論の計算スケーリングが保たれており、大規模分子系への応用に適している。多参照摂動論のプログラムは現在も開発が続いているが、比較的小さな基底関数を用いて良いポテンシャル曲面を計算する目的には強力な手法になると考えられる。又、安田は密度行列汎関数理論で局所的な相関汎関数の開発を完了し、相関因子への理論的な発展と応用が期待される。
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