研究概要 |
先に我々は,ロジウム錯体触媒不斉水素化の機構について,主として多核種核磁気共鳴分光法を用いて研究し,電子豊富なジホスフィン配位子を用いた場合には水素化がジヒドロ機構で進行すると推定した。本年度は予備的ではあるが,密度汎関数法計算を行い,先に提案した機構を支持する結果を得た。すなわち,遷移状態の構造と類似した,ロジウム錯体-水素-基質の3成分の会合体中間体と原系とのポテンシャルエネルギーの差を比較した結果,実験結果と一致する立体配置を与える中間体とのエネルギー差が逆の立体配置を与えると予想されるものよりも1.9kcal/mol小さいことが明らかとなった。現在,可能なすべての反応経路について精度の高い計算を行い,反応機構の精密な解明を行っている。 一方,先に我々が提案した改良型quadrant ruleによれば,二座ホスフィン配位子は必ずしもC_2対称でなくても,ほぼ100%の不斉選択性の発現が期待できる。この観点より,P-キラルテトラホスフィンである(S, R, R, S)-1,2-ビス(t-ブチル)(t-ブチルメチルホスフィノエチル)ホスフィノ)エタンを合成し,そのロジウム錯体触媒不斉水素化について検討した。その結果,錯体/ロジウム比が1:2の場合,99%のエナンチオ選択性の発現が観測された。この配位子を用いれば,異種の金属原子からなる複合金属錯体触媒の創製が可能であり,それらを用いる新規な触媒的不斉反応の開発も行っている。 これまでに得た知見を踏まえて,さらに高い不斉選択性と高活性を発現するホスフィン配位子の開発を目指し,先に報告したBisP^*よりも剛直な構造を持つp-キラルビスホスフェタンとp-キラルビスペンゾホスフェタンを設計・合成した。いずれも,ロジウム錯体不斉水素化において極めて高い不斉選択性が観測された。また,錯体キレートの挟角が大きいと期待される配位子とピンサー型配位子を設計し,それらの光学活性体の合成についても検討した。
|