研究概要 |
ケトン類の高活性かつ高エナンチオ選択的水素化触媒の開拓は、学術的および技術的に最重要課題の一つである。本研究者は、光学活性ホスフィンに2,2'-ビス(ジ-3,5-キシリルホスフィノ)-1,1'-ビナフチル(Xy1BINAP)、ジアミンに1,1-ジ-4-アニシル-2-イソプロピルエチレンジアミン(DAIPEN)を配位子にもつルテニウム錯体触媒を用いることにより、多くの芳香族ケトン類および不飽和ケトン類を高エナンチオ選択的に水素化することに成功した。興味深いことに、本反応はシクロプロピルメチルケトンを95%の高い光学収率で対応するアルコールに変換することができる。この結果は、本触媒が電子的および立体的環境の異なる二つの脂肪族基を認識できることを意味する。この環境の変化はカルボニルのα位にヘテロ原子を導入することによっても誘起されるものと推測した。実際に二つの酸素原子が置換したピルビンアルデヒドジメチルアセタールを(R)-Xy1BINAPと(R)-DAIPENを配位子とする錯体を用いて水素化したところ、対応するSアルコールが98%の極めて高い鏡像体過剰率で得られた。さらに、窒素原子が置換したジメチルアミノアセトンおよび2-(ジメチルアミノ)アセトフェノンを上記のR,R錯体を用いて水素化したところ、それぞれ対応するSアミノアルコールが92%と93%の鏡像体過剰率で得られた。これより、本不斉水素化における置換基の不斉誘起能力は、フェニル、ジメチルアミノメチル、メチルの順に低下することがわかった。さらに2-[ベンゾイル(アルキル)アミノ]アセトフェノン類の水素化では99%の光学収率を達成した。同様に、βあるいはγ位にアミノ基をもつ芳香族ケトン類も高いエナンチオ選択性で水素化することができた。本不斉水素化を基軸として、抗鬱剤として実用されている(R)-フルオキセチンなどの有用生理活性物質の合成にも成功した。
|