多重N-混乱ポルフィリンの合成戦略を検討するために、まず、想定しうる95個の構造異性体(互変異性体を含む)すべてについて、密度汎関法を用いて、安定構造、エネルギー、芳香族指標の計算を行った。その結果、ピロール環が一個反転するごとに、約18kcal/molの不安定化が起こすことが判明した。実際に、二重N-混乱体の合成を試みたところ、目的化合物の一方である、シス体とコロリンやオキシインドロフィリンといった新規ポルフィリノイドが生成すること、またシス体の金属錯体が特異な電気化学挙動や、光反応性を示すこと、さらには銅錯化の際、分解されてトリピリノンに変換されることなどを明らかにした。 一方、環拡張系混乱ポルフィリノイドの展開として、サフィリンからノナフィリンまでの拡張ポルフィリンの構造決定を行い、平面性と環状構造とは直接関係しないことを明確に示した。しかしながら、混乱ピロールユニットを2個導入したヘキサフィリンでは平面構造を保持し、2つの金属イオンを内部に取り込む芳香族性ポルフィリノイドであることを、X線構造解析より明らかにした。 金属配位様式としては、外周部窒素が配位に関与して対面型二量体を形成する性質があることを、亜鉛錯体により明らかにした。さらに、共役系をもたないカリックスフィリン系での混乱ポルフィリノイドでは、弱い炭素-金属相互作用が存在することを、亜鉛やカドミウムの錯体を合成して明らかにした。
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