研究概要 |
本年度の主たる目標は動的溶媒効果の測定に適した二分子反応系を探索し、triarylmethyl cation系における測定を開始することであった。以下に本年度の活動の要点を記す。 1.実験を本格的に始めるのに先立ち、海外共同研究者2名[N.N.Weinberg, (Univ. Coll. Fraser Valley, Canada), M.V.Basilevsky, (Karpov Inst.Phys.Chem., Russia)]を大分大学に招聘し、1週間にわたって集中的にディスカッションをおこなうことにより、(1)In situで光照射によって発生させた分子種と溶媒分子とが反応する系を探索すること。(2)媒体座標の物理的意味が明確になる可能性が大きい反応系を探索すること。を確認した。 2.媒体座標の意味がもっとも明確なものは活性化の過程でreactant cavityの収縮を伴うDiels-Alderタイプの付加環化反応であるとの考えに基づき、dieneを光化学的に発生すると考えられるdiarylethene誘導体数種について測定の可能性を検討したが、充分な濃度でのdiene生成は認められなかった。そこで逆にdieno-phileを光化学的に生成すると思われるdihydroazulene誘導体の合成を試みることにした。現在その合成の最終段階を行なっているところであり、合成が確認できれば光照射によるdienophileの発生とそのdieneによる捕捉を試みる予定である。 3.Triarylmethyl cationとアルコールとのエーテル結合生成過程を測定対象とすることができるのではないかとの考えに基づき、先ず4,4'-bis(dimethylamino)triphenylmethyl cationをcyanideよりin situで発生させそのmethanolとの反応を検討した。しかし、生成したcationの反応性が低く、測定に必要な充分大きい反応速度が得られなかった。この結果を受け、4,4'-dimethoxytriphenylmethyl cationについてその反応を検討中である。 4.一方のreactantをin situで発生させて溶媒分子と反応させることができる他の反応系を探索するための文献検索を行なった。その結果新たに数種類の反応を利用できる可能性が明らかになった。次年度はそれらについての検討をも行なう。
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