研究概要 |
溶液中の有機二分子反応の動的経路を明らかにするために、比較対象としての一分子反応も含め以下の比較的遅い熱反応の速度に対する粘度効果を測定した。 1.スピロナフトオキサジンおよびスピロナフトピランから生成するメロシアニンの閉環異性化。2.クロメンから生成する開環着色体の閉環異性化。3.1,1-ジアリールアルキルカチオンのアルコール溶媒との反応。4.2-(ジニトロベンジル)ピリジンへの光照射によって生成するエナミン体のピリジン体への異性化。 粘度を連続的に高めるための手段として高粘度の液体、2-メチルペンタン-2,4-ジオール、三酢酸グリセリン、2,4-ジシクロヘキシル-2-メチルペンタン、およびそれらと構造ならびに誘電率が類似した低粘度液体を反応媒体とし高圧力を印加した。加えられた圧力による反応の活性化自由エネルギー変化の効果を低粘度溶媒の結果から推定することにより反応速度に対する動的溶媒効果(粘度効果)を単離し、その結果から動的反応経路についての情報を得た。その結果は以下のように要約される。 1.一分子過程と同様二分子過程においても、溶媒分子の動きと反応分子の構造変化とは時間的に同期されているとは限らない。言い換えれば溶液反応の記述には相互に独立した媒体座標と化学座標を必要とする。2.溶媒和殻の中で化学的構造変化が起こる場合には溶媒分子との相対的位置関係が変化しなければならないが、その変化はあらゆる方向において無差別に起こるのではなくある部分で選択的に起こる。以上をまとめると、溶液反応における活性化過程は時間的非同期性と空間的選択性を伴って進行することが明らかになった。
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