1)還元型シトクロムc酸化酵素は酸素分子を水分子に4電子還元する機能を有していることが知られているが、その反応機構に対し実験サイドから多くの提案があるものの確定していなかった。我々は電子論的立場に基づき理論化学計算をもちいて、水分子の生成機構と反応にともなう電子状態の変化を明らかにした。反応機構をまとめると、a)His290とTyr244とに水素結合によって水分子が存在する。この水分子は、Tyr244、ファルネシルエチル、K-channelの末端であるThr316まで水素結合のネットワークが存在し、還元反応に必要なプロトンがこのネットワークを介してこの水分子まで移動する。b)プロトン移動によって水分子はヒドロニウムイオンとして、ヘム鉄に結合して酸素分子にプロトンを運び、プロトンをFeOOにわたした後、水分子として元の位置に戻ることが判った。すなわち、この水分子がプロトン供給に重要な役割を担っている。c)プロトン移動によってFeOOHが生成し銅原子からFeOOHへ電子が移動し、銅原子は1価から2価に変化する。d)酸素分子が存在しない時のプロトン移動の活性化エネルギーを12kcal/molと評価した。e)2個目のプロトンもこの水分子によって運搬される。f)これらのプロトン移動間にヘムaから2電子が移動し水分子が生成することがわかった。本研究によって、完全還元型シトクロムc酸化酵素による1個目の水分子の生成機構を理論化学計算から明らかにすることができた。2個目の水分子の生成機構を明らにすることが次の課題である。 2)Cu(I)イオン存在下、5'-XG_1G_2G_3-3' (X=T or C)の1電子酸化による損傷は、G_1が選択的に損傷を受けることが実験サイドから報告されている。本研究では、Cu(I)イオンがGのN7位に配位した構造を基に、5'-XG_1G_2G_3-3'とそのラジカルカチオン状態の安定性と電子状態を量子化学計算から検討した。その結果、Cu(I)イオンが5'-XG_1G_2G_3-3'のG_2に選択的に配位することが一電子酸化のG_1の選択性の要因になっていることを解明した。
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