研究概要 |
水は地球上に極当たり前に存在してるが、その集団的性質は未だはっきりとは分かっておらず、生体内の水や極限状態にある水を含めて、生物物理や物性、環境あるいは天文科学の観点から盛んに議論・研究されている。我々も合成化学的なアプローチによってナノサイズの細孔内に閉じこめられた特殊環境にある水の集団的性質を水分子のレベルで明らかにすることを目指している。例えば低次元細孔内で水-氷転移を起こすような水のクラスターを精密な温度制御によって結晶構造解析を行えば、どの水クラスターのどの水分子から動き出して液体状態あるいは固体状態になるのかが分かるようになるものと考えられる。このような各水分子の3次元レベルの情報が観測できれば例えば理論計算で予想されているようなチューブ細孔内の水クラスターによる固体-液体臨界点の問題やどのような水分子から氷になるかの氷核成長理論の実証あるいは極限状態の水の構造モデル的な研究など数々の水における重要な理論的な課題を実験科学的に証明・観測することができるものと考えている。 実験は[Co^<III>(Hbim)_3]とTMA(1,3,5-tricarboxylic acid)を水中で自己組織化反応することによって得られた多孔質結晶({[Co^<III>(Hbim)_3](TMA)}_n)を用いた。この結晶は約〜1.6nmの直径を持つ1次元チャネル空孔をもつ自己組織化し、その空孔内部にはすべて水のクラスターが含有されたIce Wiresが存在することがX線結晶構造解析にによって明らかになった。この結晶内の水クラスターのDSCは可逆なビークを示し(降温過程-44.5℃,昇温過程-33.5℃and-30.4℃(5.0℃/min))、面白いことにこの降温と昇温におけるピークの形が異なっていた。この部分のピークが細孔内に取り込まれた水クラスターの氷-水転移であることは空孔内の水を重水に置き換えた固体^2D-NMRの解析によって明らかにすることに成功した。また、この結晶ペレットによるプロトン電導度は従来の水や氷のプロトン電導度に比べて4桁以上も大きくなっていることが観測された。
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