研究概要 |
本研究はデザインされた分子性の構築素子からナノメータースケールのチャネル構造を持つ多孔質結晶を構築し、この内部に機能性分子を集積させようとするものである。1つの成果としてこの多孔質結晶の内部に巨大な水分子のクラスター構造を安定化することに成功した。この〜16Åの大きさをもつ1次元型チャネルの多孔質結晶はtris-2,2'-biimidazolate金属錯体([M(Hbim)_3])の相補的な分子間水素結合とトリメジン酸との新しい水素結合を利用したものである。従来から用いてきた[M(Hbim)_3]を構築素子とする自己相補的な分子間水素結合系では多孔質骨格自身を作る水素結合によってすべての水素結合部位は使われてしまうため、内部に挿入された水分子を安定にクラスター化することはできなかった。実際、溶媒交換反応によってこの多孔質結晶の内部に挿入された水分子はクラスター化せず、激しいディスオーダーによって水分子の存在さえ、よく分からないものになっていた。このトリメジン酸骨格と[M(Hbim)_3]の分子間水素結合は結合をした後でも、カルボキシル基の酸素原子に水素結合可能なアクセプター性を残すことになり、大きな水クラスターの安定化が期待できる。得られた結晶を、解析してみると3層構造を有するような階層的なチューブ状のナノ水分子クラスターが生成した。この水分子クラスターを含む結晶の特徴は容器に入れたバルクの水のように、温度によって水から氷へあるいは氷から水への可逆な相転移を起こすことである。また、その"氷状態"のクラスターの内部構造は-80℃以下の低温でのみ安定に存在する立方晶氷(I_c)と部分的に一致する構造を観測した。通常、我々が見ることができる六方晶氷(I_h)は水分子が互いに4つの水素結合の手をもった四面体型に配列することが知られている。しかし、我々が得た結晶は氷状態の"Ice nano-tube"が4つの水素結合の手をもたない異常な水分子のクラスター(C_s-tetramer)を含むことが明らかになった。すなわち、非常に狭い細孔や層間に閉じこめられた水が凍るときに、氷点が0℃以下の低温に移行することが知られている。これは4本の四面体型の水素結合の手で結合した氷と異なった構造をもつ水分子が凍るためであるといわれていた。このC_s-tetramerは通常の4本の手をもたない氷のクラスターを初めて観測した例となる。
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