本研究は交差共役型、超共役型のスピン分極ドナー分子を合成し、有機強磁性金属を構築すること及び金属ナノ粒子とスピン分極ドナー分子の複合体に磁性を付与することを目標として研究をおこなっている。 金属的導電性を示すET分子をトリメチレン鎖架橋により二分子階層化した交差シクロファンツインドナー分子のラジカル塩を調製し、磁気測定を行なったところ低温領域において強磁性相互作用が見出された。強磁性相互作用の発現機構としてアルキル鎖の超共役機構が重要であることを提案し、超共役を利用した分子設計が有機強磁性金属構築への新たなアプローチとなることを報告した。また、これまで開発してきたスピン分極ドナーを発展させ、金属的導電性を担う金ナノ粒子表面に局在スピンを有するスピン分極ドナーを化学吸着させた複合体を調製した。この金ナノ粒子は有機溶媒に可溶であり、透過型電子顕微鏡、X線小角散乱の結果より約4nmの粒径をもつことがわかった。粒径と元素分析の結果より、この粒子は平均として金原子が1750個、ラジカルが125個からなる組成をもつことがわかった。この金ナノ粒子のESR測定を行なったところ180mTの半値幅を有する非常にブロードな強いシグナルが観測された。現在磁気的性質に関する詳細な検討を行なう目的で、金ナノ粒子の粒径による違い、異なる調製条件、種々のラジカルを用いた場合等について研究を行なっている。
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