本研究は交差共役型及び超共役型のニトロキシド系スピン分極ドナーを合成し、有機強磁性金属の構築や、金属ナノ粒子とスピン分極ドナー分子の有機・無機複合体に磁性を付与することを目的としておこなった。 4nmの粒径をもつ金ナノ粒子に種々のスピン分極ドナーを化学吸着させ、固体状態でESR測定をおこなったところ、配位子の種類により線幅が30〜1.5mTの範囲で変化した。線幅は主にスピン-スピン緩和時間と相関があるが、いずれもニトロキシド系ラジカルで同様の電子状態を有すること、及び吸着したラジカル分子間距離はラジカルの種類により大きく変化しないことから、線幅の違いは空間を通じたスピン-スピン緩和機構のみでは説明できないことがわかった。金原子に直接接触している各ラジカル配位子の硫黄原子上のスピン電子密度を分子軌道計算により見積もったところ、それらの値の平方根と線幅との間には直線的な相関が見られた。これらの結果より、ESRスペクトルにおいて異常に大きな線幅を与えた原因として、吸着ラジカルスピン間が金ナノ粒子を介して相互作用することに由来していることが考えられる。金ナノ粒子内におけるラジカル間の磁気的相互作用は常磁性的であったが、今後、スピンをもたない類似配位子を同時に混入させる等の手法を用いて吸着サイトの格子間拒離を制御することにより、超常磁性や強磁性の磁性発現が大いに期待できることが明らかとなった。
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