研究概要 |
本研究では,二次元金属を容易に与えるπ電子骨格として,本研究者らにより開発されたテトラチアペンタレン(TTP)系ドナーに化学修飾を施すことにより新しい有機超伝導体を構築することを目的としている。本年度に得られた成果は以下のとおりである。 (1)分子内クーロン反発の増大による金属状態の不安定化とそれに伴う超伝導化を図ることを目的として,TTP骨格中にシクロヘキサン環を挿入したCHADTDTの開発を行い,母体分子をはじめとした幾つかの誘導体の合成に成功した。CV法により電気化学的性質を検討したところ,4対の一電子酸化還元波が観測され、最も低電位側の波(第一波)と第二波の電位差がTTPよりも大きくなっており、期待通りジカチオンにおける分子内クーロン反発が増大している事が示唆された。分子軌道計算によるとシクロヘキサン末端の1,3-ジチオール環にはHOMOの係数が無視できる程小さくなっており、伝導性錯体中において、分子がhead-to-tail型の積層構造をとった場合にはバンド幅の減少による金属状態の不安定化が実現できると期待される。 (2)シクロヘキセン環が縮環したTTP系ドナーの一種であるCHTM-TTPはTCNQやGaCl_<4^->と金属的な錯体を形成することが知られている。本年度、CHTM-TTPを用いた新たなGaCl_4塩(CHTM-TTP)GaCl_4(1)、(CHTM-TTP)GaCl_4(PhCl)_x(2)を作製し、その構造と伝導性について検討した。1は二種類のスタックが風車型に配列するといった三次元的な分子配列を持つ。しかしながら、スタック間に電子的な相互作用はない一次元導体である。この塩はドナー分子が完全にイオン化されているにもかかわらず比較的良好な伝導性を示す半導体である(σ_<rt>=2.9Scm^<-1>,E_a=0.04eV)。一方、2は二量化したドナー分子平面の真上に対イオンが存在するといったDDADDA型の交互積層構造をとっている。また、分子長軸方向のずれが非常に大きいためにカラム間の相互作用も小さいと考えられる。この塩は室温で2.0×10^<-2>Scm^<-1>の伝導性を示し、活性化エネルギー0.11eVの半導体であった。 上記の結果をまとめた論文については一部を除き投稿済みである。
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