(1)対象とする光励起有機高スピン系の光物理過程はこれまで研究例が殆ど無く、スピン多重度と励起エネルギー移動等の関係に興味が持たれます。13年度には、すでに光励起多重項状態(四重項状態および五重項状態)が時間分解ESRにより検出できたフェニルアントラセン-イミノニトロキシド系およびフェニルアントラセン・フェルダジル系を中心として、光学測定用クライオスタットを組み込んだ過渡吸収スペクトル測定システムを組み立て、時間分解ESRスペクトルにより得られた励起高スピン状態の寿命とその温度変化を調べました。本年度は、πトポロジーと励起状態でのスピン整列の関係をより詳しく解明する目的で、ラジカル種をイミノニトロキシド系と比較して連結炭素の1つ少ないt-Butyl-Nitroxideに変えた系で励起状態でのスピン整列を調べる事により、πトポロジーの役割を検証する事に成功しました。 (2)また、2つのt-Butyl-Nitroxideラジカルが強く強磁性的に結合した基底三重項系とアントラセンとのπ共役スピン系を合成し、分子内スピン分極移動および系間交差について研究し、この系の光励起状態でのエネルギー移動過程を明らかにしました。 (3)光学スペクトルとレーザー磁気共鳴で観測された高スピン状態との対応関係を明確にする目的で、発光をモニターしてESRを観測する光検出磁気共鳴(ODMR法)の測定が無輻射遷移の強い系でも可能となるように、パルス光検出磁気共鳴装置(ODMR法)を試作しました。 (4)π共役有機スピン系を利用した、光誘起励起状態スピントラッピング(LIESST)の可能性を探索する目的で、上記のπ共役スピン系と適切な電子受容体との電荷移動結晶を作成を試みました。
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