本研究課題は、多電子相関が関与する多スピン系有機分子の光学的励起状態の電子状態とスピン整列の支配的機構の解明を目的として行った。 (1)申請計画どおり過渡吸収装置、時間分解蛍燐光測定装置を組み上げた。この過渡吸収スペクトルの時間減衰から、光励起高スピン系の寿命を見積もる事に成功した。 (2)ラジカル種をフェルダジルラジカルに変えた系でも励起四重項および五重項項スピン状態の検出に成功した。さらに、アントラセン以外の純有機縮合多環芳香族として、ピレン-フェルダジルラジカル系を取り上げ、予測どおり光励起四重項高スピン状態を時間分解ESRにより検出する事に成功した。これらの研究成果から光励起高スピン状態の生成に対する必要条件に関する更なる知見が得られ、光励起高スピン状態をとる系の分子設計を行う上での明確な設計指針を確立できた。 (3)ラジカル種をt-Butyl-Nitroxideに変えた系での励起状態におけるスピン整列を調べる事により、πトポロジーの役割を検証する事に成功した。 (4)4つの不対電子スピンからなる、特異な最低光励起三重項状態の検出に成功した。また、その特異な電子状態を全スピンハミルトニアンを用いた理論的取り扱いにより解明した。 (5)光励起高スピン状態が形成される縮合多環安定ラジカル系の電子供与性を高める目的で、ジメチルアミノ基を導入した系を設計・合成し、電気化学測定、光学測定、磁化率測定及び時間分解ESR測定を行った。これらの測定結果から、適切な分子設計を行う事により、電子供与性を高め、かつ励起高スピン状態をとる特質を保持した分子が得られる事が明らかになった。 (6)π共役有機スピン系を利用した、光誘起励起状態スピントラッピング(LIESST)の可能性を探索する目的で、π共役スピン系と電子受容体との電荷移動結晶を作成し、その基礎的性質を磁化率測定、ESR、時間分解ESR等により明らかにした。
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