光、熱、電場などの外部刺激に対して、異なった応答性ユニットを有する新奇な機能性有機物質類の開発を目的として研究を進め、以下のような知見を得た。 光による構造変化を利用して、磁性、導電性、液晶性などの物性の変換が期待される新奇な機能性有機物質類の開発を目的として、安定ラジカル置換ナフトピラン、サリチリデンアミン及びアゾベンゼン誘導体の合成を行った。安定ラジカル置換ナフトピラン誘導体においては、光により対応する開環体へと変化し、これに伴ってキュリー・ワイス型の分子間磁気相互作用が変換されることを明らかにした。また、1種の長鎖アルコキシ置換アゾベンゼン誘導体においては、分子間磁気相互作用が、キュリー・ワイス型から、シングレット・トリプレット型へ変換されることがわかった。このように、光による新しい磁性変換系を構築することができた。 また、熱による構造変化を利用して、磁性、液晶性などの物性が変換される新奇な機能性有機物質類の開発を目的として、長鎖アルコキシ基を側鎖として有する種々の安定ラジカル置換ビフェニル、ナフタレン、アゾベンゼン、アゾキシベンゼン誘導体の合成を行い、それらの磁性や液晶性等の性質について検討を加えた。この研究の過程で、TEMPOラジカル置換基を2個有する誘導体(ビラジカル類)においては、J値の比較的大きいシングレット・トリプレットモデルで表される磁気的挙動を有するいくつかの物質が見出され、それらの磁性と構造の関係を明らかにした。液晶性を有する誘導体は2種類見出されたが、転移温度範囲が狭いという難点を有していたため、現在更に新たな熱応答性物質の開発を目指して、検討を進めているところである。 更に、新しい導電性磁性体の開発を目指して、TEMPOラジカル誘導体をアニオン部に含み、TTF誘導体をカチオン部に含む、種々のラジカルイオン塩類を合成した。これらの中から10^<-1>S/cmレベルの比較的高い室温伝導度を有する錯体が見出され、主にX線解析により、それらの構造と物性の相関性を明らかにした。
|