遍歴的な電荷が相転移を起こして局在化し、局在化した電荷が規則正しく整列する(電荷整列)現象が一群の分子導体で発見され、新たな電子状態として注目されている。この研究では局在化に伴って発生する電荷分布の濃淡(不均化)を電荷に敏感な分子振動モードをプローブとして追跡している。3年間の研究で以下のことを明らかにする事ができた。(1)電荷の不均化に伴って分裂する分子振動モードは振電相互作用の影響を受ける。クラスターにおける振電相互作用の理論模型を用いて、振電相互作用の大きさに応じて、電荷に敏感な振動モードがどのように分裂するかを明らかにした。そして、BEDT-TTF電荷移動塩では、不均化率を知るのにv2モードが、電荷配列の対称性を知るのにv3モードが有用であることを明らかにした。(2)従来、θ-(BEDT-TTF)_2RbZn(SCN)_4で知られていた横縞の配列に加えて、θ-(BDT-TTP)_2Cu(NCS)_4では縦縞の配列、θ-(BEDT-TTF)_2TlZn(SCN)_4では斜め縞の配列の電荷秩序状態をとることを発見した。(3)θ-型のBEDT-TTF塩の相図を作成するためにバンド幅の狭い塩から広い塩まで系統的な研究を行い、これらの物質の低温絶縁相が全て電荷秩序状態をとることを証明した。さらに高温相は金属ではなく短距離的な秩序をもつ電荷整列状態が揺らいでいる状態であることを明らかにした。また、θ-(BEDT-TTF)_2CsZn(SCN)_4の絶縁相は電荷秩序状態ではなく、弱く局在した電子状態であることを明らかにした。(4)従来良く分かっていなかったβ"-型のBEDT-TTF塩の絶縁相を明らかにするためにβ"-(BEDT-TTF)_3(ReO_4)_2の相転移を調べた。そして絶縁相では3量体の両端に電荷が局在した構造をとっていることを明らかにした。
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