研究概要 |
修飾分子/試料分子となるチオール部位を持つ核酸塩基を合成した.この合成した核酸塩基チオール誘導体を金表面上に自己組織化単分子膜(SAM)を形成させたものを試料として,未修飾のSTM探針と対核酸塩基チオール誘導体をSTM金探針上にSAMを形成させて作成した化学修飾探針でそれぞれ測定を行い,試料分子の見かけ上の高さの変化を比較した.二種類の核酸塩基(Adenine/Guanine以下A, Gとする)からなるSAMを試料とし,核酸塩基(Cytosine以下Cとする)で修飾した探針で測定した結果GはAよりもおよそ2倍の高さで観察されたが,未修飾探針の場合にこうした高さの違いは観察されなかった.こうした化学修飾探針による分子の見かけ上の高さの相違は,修飾分子と試料分子との間で1本の水素結合しか形成できないAとCと比べて,核酸塩基ペア同士で3本の水素結合を形成できるGとCの場合には両分子間の電気軌道の重なりが大きくなり,トンネル電流の量に違いが生じたためと考えられる. 蛋白質などの凹凸の激しい試料をSTMにより観察した際には,探針が試料に十分近づけず,一般に分解能が低下することが知られている.そこで,本研究ではまず,このような試料に対しても高分解能での観察を行うため,直径の非常に小さいカーボンナノチューブ(CNT)を探針として用いることを検討した.まず,金のSTM探針を末端にCOOH基をもつSAMを用いて修飾した.この修飾探針にZn^<2+>への配位結合を利用し,両末端にCOOH基を持つCNTを固定し,透過型電子顕微鏡により確認した.さらに,分子内にエーテル酸素を含む長鎖アルカンをこのCNT探針を用いてSTMにより観察を行い,探針と試料との間の水素結合に基づき,試料のエーテル酸素原子のみが選択的に明るく観察できることを明らかにした.また,得られたSTM像においてはこれまでのSAM修飾探針よりも非常に高分解能が達成できることを示した.
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