1.FISH (Fluorescence in situ hybridization)法により、マウス胚におけるXist遺伝子の発現とX染色体不活性化(XCI)の開始のについて検討し、XX雌胚でのXCIは次のように起きると結論した。卵割期にはX染色体の数にかかわらず全ての核で父性X(Xp)より安定型のXist RNAが発現した。ここで、X染色体のカウンティングがあり、Xpがそのまま不活性化するが、全能性を維持しているエピブラストではXistの発現は停止する。エピブラストでは原羊膜腔の形成時に再びカウンティングがあり、今度はランダムにXistが発現し、XCIが起きる。原始内胚葉では栄養芽細胞と同じ経過を経てXpが不活性化すると思われる。 2.Searle転座T(X;16)16Hを持つ個体において、正常X染色体のみが不活性化する原因を検討した。lacZとGFP遺伝子を組み込んだX染色体を正常X(Xn)として用い、その発現をX染色体の活性状態を示すマーカーとして利用した。この結果、始めからXnが優先的に不活性化し、転座Xが不活性化した少数の細胞は急速に淘汰され、受精後8.5日目までにはほぼ完全に消失することが判明した。不活性化するXの選択にかかわるlocusが転座切断点にあるために転座X染色体は不活性化しにくくなっていると想定し、クローニングを試み、260kbのBACクローンまで追いつめた。 3.lacZとGFP遺伝子がトランスジーンとして組み込まれたX染色体をヘテロに持つES細胞株を3系統樹立して、GFP、β-Galの発現変化より細胞分化とXCIの関係を検討した。未分化状態ではGFPとlacZは共に活性であるが、胚様体を形成させると不活性化を示すトランスジーンの発現変化が認められた。しかし、レチノイン酸により分化誘導した細胞ではlacZとGFPが独立に発現することが多く、細胞によってはXCIが正常に起きていないことを示した。
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