研究概要 |
本研究は高山生態系における雪解け時期の変動が、そこに生育する植物個体群の時空間的動態ならびに遺伝的構造に及ぼす影響を定量的に評価し、さらに、得られた結果をもとに、数理モデルを用いて変動環境における植物個体群の動態を予測することを目的として行った。野外調査ならびに室内遺伝実験は、大雪山、立山、ロッキー山脈の3地域に関して行った。 大雪山では、さまざまな高山植物個体群間で、交配システム変異と花粉散布による遺伝的交流の程度を明らかにするために、アロザイム分析ならびにマイクロサテライト遺伝子を用いた種子の遺伝解析を行った。その結果、いずれの種においても局所個体群は遺伝的に分化している傾向が認められ、遺伝構造は地理的距離もしくは雪解け傾度の影響を受け、階層的に構築されている傾向が示された。 立山では、周北極要素の高山植物・チョウノスケソウについて,立山の一ノ越個体群と水晶岳の個体群について,10酵素18遺伝子座でアロザイム分析を行った。その結果,両個体群ともすべての遺伝子座において,変異が全く無いことが分かった。また,立山一ノ越個体群において花の形質を調べたところ,北極圏の個体群に比べて雌しべに対する雄しべへの投資比が高いことが分かった。 ロッキー山脈では、カタクリ(Erythronium grandiflorum)を対象に、消雪時期の変動と集団間・集団内の遺伝的分化を調査した。酵素多型分析の結果、高山性カタクリ集団において消雪時期の不均一性が開花フェノロジーを変動させ、花粉流動を妨げることにより、遺伝的構造を生じさせることが明らかになった。 このほか、野外生態調査と平行して、多年生植物の動態を記述する数理モデルに関する研究を行い、密度依存性がある動態の場合の環境変動に対する集団の応答を評価する方法を新たに開発した。
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