警告色の擬態進化を総合的に解明するために、大崎はおもにべーツ式擬態を、西田はミュラー式擬態を研究した。大崎は蝶にひろくみられる雌でのみ発現するベーツ式擬態について、雌の擬態型と非擬態型の生態特性について主に調べた。その結果、通説とは異なり、擬態型は生存率が低く、強い捕食圧がない状態では存続できないことがわかった。しかし擬態型の低い生存率は捕食回避の点で有利であることによって補償されており、生理的には高いカロチノイド含有量によって実現されていることが示唆された。雄と雌に対する鳥の捕食圧を種間で比較すると、林冠部で高速で飛翔する種ではメスで圧倒的に高く、逆に林床部で低速飛行する種では雌雄でほぼ等しいことが分かった。こうした捕食圧の性差と擬態に伴う生理的コストのバランスによって、ベーツ式擬態が雌のみで、あるいは雌雄でともに発現するかが決まると考えられた。 西田はホシカメムシ科に属する、2つの捕食者-被食者系においてミュラー式擬態と系内捕食の関係を解析した。擬態の程度は、捕食-被食関係が特殊化している系でより高い傾向があった。すなわち擬態が特殊化しない系でのみ、被食者の体色の反射率が低く、警告色の程度が低かった。これに対して、特殊化してる系ではいずれの種の体色の反射率も50%にも達し、生息場所の色環境と比較して著しい警告色となっていた。現時点では、系に共通する天敵は存在せず、被食者は系内捕食という適応度コストのみを被っていた。したがって現時点では、ミュラー式擬態を維持している自然選択圧は特定できなかった。ただし、摂食経験のない鳥は躊躇せずに摂食を試みることから、巣立ち時の未経験の鳥がミュラー式擬態の維持に関与している可能性があった。
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