研究概要 |
平成14年度は,主に,もっとも寒冷であったといわれている最終氷期最盛期における植生の復元についての基礎データを得るため,近江八幡市(琵琶湖沿岸部)および高知県南国市伊達野(四国太平洋岸)において採取した最終氷期最盛期の堆積物の花粉分析を行った。また,これらの花粉分析データの解釈に必要な亜寒帯域における表層花粉と植生の関係を明らかにするため,北海道の亜寒帯性針葉樹林(名寄周辺)において,湿原の表層堆積物を採取した。 花粉分析の結果,2万年前前後堆積物からの琵琶湖沿岸部では,ツガ属,マツ属,モミ属,トウヒ属のマツ属針葉樹とコナラ亜属花粉が優勢であった。また,四国太平洋岸では,樹木では同様のマツ科針葉樹花粉が認められるが,イネ科,ヨモギ属などの草本花粉の比率が他の地域よりも高かった。従来採取した表層試料を含めて,表層と植生の関係については,現在,分析中である。 現存植生の調査として、四国のモミ・ツガ林(冷温帯-暖温帯)および照葉樹林(暖温帯)において、林分構造、種組成の詳細な調査を実施した。モミ・ツガ林調査において、樹種個体群の動態をサイズ分布と個体分布から解析した結果、先駆型樹種を除いて、落葉広葉樹12樹種、常緑広葉樹1樹種が消滅危倶樹種と診断された。照葉樹林は熱帯、暖帯そして温帯へと移行する区分のため、間氷期の植物の移動経路として重要である。移住に取り残されたと考えられる植物種として、四国におけるトキワバイカツツジの隔離分布地を調査した。トキワバイカツツジは深く侵食された谷筋の中流域の岸壁の下部に点在し、渓谷に沿って50メートル程の小さな群落が2箇所にしか認められなかった。いずれも樹齢50年から100年程度の中木が散在しており、概数として100株未満が認められた。果実の着生も年次変動が大きく、実生の更新は不安定で、かつ少なく、本極は確実に消滅に向かっていると予想された。
|