研究概要 |
前年度に引き続き,プラスチドゲノム装置の不連続進化仮説を検証するために実験を行い,以下の結果を得た。 1.ヒメツリガネゴケのT7ファージタイプRNAポリメラーゼの細胞内局在について,外国から異なる結果が報告されたため,さらに詳しく検討した。2個のメチオニンコドンのうち,第一のものから強制的に翻訳された産物は確かに葉緑体に輸送されたが,細胞内ではこの位置から翻訳されることはほとんどなく,結果として,このRNAポリメラーゼはすべてミトコンドリアに局在することを,免疫ブロット,GFP融合タンパク質,転写活性のタゲチトキシン感受性などにより証明した。 2.葉緑体包膜のDNA結合タンパク質PENDの細胞内局在について,安定な形質転換体を用いた実験により調べ,基本的には葉緑体に局在すること,傷害を受けた細胞では,細胞核にも局在することなどが分かった。葉緑体の傷害情報を細胞核に伝達する役割を持つ可能性が考えられた。 3.亜硫酸還元酵素(SiR)が葉緑体核様体の主要DNA凝縮タンパク質であることについてはエンドウを用いてすでに明らかにしているが,ヒメツリガネゴケ,単細胞紅藻およびシアノバクテリアからも核様体を単離して,比較検討した。ヒメツリガネゴケではエンドウと同様に,SiRが核様体の主要構成成分であったが,紅藻とシアノバクテリアでは,核様体からSiRが検出されたものの主要成分とは考えられなかった。また,エンドウのSiRのcDNAを単離し構造を決めた。 4.二次元電気泳動により,核様体に含まれるSiRと葉緑体全体に存在するSiRとでは等電点が大きく異なることが分かった。この原因について,葉緑体のリン酸化酵素を新たに取得して詳しく検討したが,葉緑体の転写活性にはリン酸化が関わっているものの,SiRの等電点はリン酸化では説明できないことが分かった。 5.ゲノム進化を解析するソフトウェアの開発を行い,これを用いてシアノバクテリアから植物にもたらされた遺伝子群の同定を行った。
|