本研究「植物培養細胞の馴化(ハビチュエーション)の分子機構の解明」では、タバコBY-2細胞に由来する2B-13細胞を用いて馴化の機構解明に関わる研究を行った。すなわち、BY-2細胞は増殖に関してオーキシンを必要とするが、馴化細胞2B-13はオーキシンを必要としない。ところが、2B-13細胞の細胞培養濾液をオーキシン飢餓状態で増殖を停止しているBY-2細胞に加えると、細胞増殖が再度開始した。ところが、この細胞濾液中のオーキシンやサイトカイニンの濃度は通常と変わりないことから、培地中の他の因子が細胞分裂に関わっていると推定された。そこでヒドロキシアパタイト、アフィニティイー、ゲル濾過カラムクロマトグラフィーをこの順序で行い、精製を試みたところ、この活性因子は30kDaの糖タンパク質であると同定された。このような高分子でオーキシン作用を持つ物質は知られていないので新奇細胞活性因子であると推定された。 一方、BY-2細胞がこのような性質を持つ可能性を追求したところ、精製の結果二種類の糖タンパク質が同定され、それぞれの分子サイズは25kDa、40kDaであった。いずれもオーキシン飢餓BY-2細胞に細胞分裂誘導活性を与えた。上記のように2B-13細胞はBY-2細胞より誘導されたものであるので、これら三種類の糖タンパク質の関係が大変興味がある。また、オーキシン信号伝達の経路における位置関係も興味のあるところであり、オーキシン研究にも新展開を与えた結果となった。 結論として、これまで全く研究の手掛かりの無かった馴化の指標となりうる高分子物質が発見されたので、これを下にして1942年の発見以来不明点の多い馴化の分子機構が解明されると判断される。
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