本研究では、酵素1分子の活性制御を可視化する実験系の構築と、葉緑体ATP合成酵素の活性制御機構を研究するための大腸菌を利用したモデル実験系を完成し制御の分子機構を明らかにすることを目指した。3年間の研究期間内に明らかにしたことは以下の通りである。 a.ATP合成酵素の1分子回転観察実験系を用いて、葉緑体由来のATP合成酵素の酸化還元制御が回転頻度と休止時間の制御であることを明確に示した。そして、酸化条件下での抑制された活性の状態でも、酵素は活性状態と不活性状態を行き来しているいわば平衡状態にあることを見出した。 b.好熱菌FoF1の発現系に葉緑体由来のγサブユニットの制御領域を導入してさまざまな酵素活性を測定し、γサブユニットとεサブユニット間の相互作用が制御に重要であることを明らかにした。 c.好熱菌由来のF1に変異を導入して、葉緑体ATP合成酵素に特異的な阻害剤であるテントキシンに対する感受性を付与し、テントキシンによる阻害と再活性化の1分子観察に成功した。その結果、活性化が休止時間と頻度の変化に起因することを見出した(アムステルダム自由大学、ハインリヒ・ハイネ大学との共同研究) d.酵素1分子の活性制御を可視化する実験系として、マイクロキャピラリーHPLCを用いた測定系、蛍光顕微鏡とCCDカメラを用いた測定系について検討を行い、後者を利用した実験系によってほぼ必要感度を満たすことを明らかにした。
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