研究概要 |
双子葉植物の芽生えは胚軸と幼根の先端に茎頂分裂組織(SAM)と根端分裂組織(RAM)があり、発芽後はこれらの分裂組織(メリステム)から植物の全ての部分が作られる。本研究の目的はこれらのメリステム形成の分子機構をシロイヌナズナの突然変異株を材料に分子遺伝学的に明らかにする事であり、本年度は次の点を明らかにした。 1,SAM形成機構;我々は胚発生過程におけるSAM形成とカルスからの不定胚形成過程において、CUC1,CUC2(Cup-shaped cotyledon)遺伝子が重要である事を既に示していた。本年度は、これらの遺伝子産物が殖物細胞中で転写因子として機能する事を明らかにした。そして、このタンパク質のC末端側は転写活性化能を持ち、N末端側のNACドメインにSAM形成の特異性が存在する事を明らかにした。更に、CUC1,CUC2の発現を人工的に調節できる系をつくり、SAM形成過程で特異的に発現する遺伝子群の網羅的な解析の足掛かりを確立した。また、cuc1あるいはcuc2の単独変異株のサプレッサーやエンハンサーを多数得ており、側枝形成に異常を示す変異株も得ている。 2,RAM形成機構;側根形成時に新しいRAMが作られるがその過程でオーキシンが重要なはたらきをする事をすでに示していた。我々はこの過程で重要なはたらきをする転写調節因子SLR(solitary root ; IAA14)を単離して解析している。その結果、側根のRAM形成過程においてSLRは内鞘細胞が細胞分裂を再開する時に機能する可能性が強く示唆された。また、この遺伝子に変異を持つslrサプレーサー変異を多数単離し、遺伝学的な解析を始めた。そのうち幾つかはSLRの最初の変異とは別の位置に再び変異が入り2重変異となったサプレッサーであり、残りは別の遺伝子に変異が入ったサプレッサーである。現在、その一部に対してマップベースクローニングを行っている。また、野生型とslrからmRNAを抽出し、それを用いてデフェレンシャルデスプレーやアレイを行い、RAM形成時にSLRによって制御される下流遺伝子を探している。
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