研究概要 |
特定の環境刺激に対する応答に関わる制御領域を同定する研究では、自的遺伝子の隣接領域、特にプロモーターと推定される5'側近傍領域にレポーター遺伝子を接続したキメラ遺伝子を利用する手法が多用されてきた。トリエン脂肪酸生成酵素ω-3デサチュラーゼの温度的な発現制御に関わるFAD8の遺伝子領域を同定する目的で同手法を適用したが、FAD8の発現をレポーター遺伝子により可視化することには成功しなかった。また、3つのω-3デサチュラーゼイソ酸素遺伝子(FAD, FAD3, FAD7)の近傍における詳細なゲノム構造の解析から、FAD8が集約的な発現制御機能を備えたプロモーターに依存しない、新奇な発現制御システムを有することを示唆するデータを得た。本研究では従来の解析手法の制約を克服するために、独自の発現解析技法を確立した。シロイヌナズナのFAD7fad8二重変異体では、トリエン脂肪酸含量が全温度域において基底レベルに低下しており、温度依存的な変動を示さない。この二重変異体におけるそのような形質を、種々のFAD8の改変遺伝子や、温度に対する発現レスポンスの異なるFAD7-FAD8両遺伝子間のキメラ遺伝子により相補する試みから、次のような2つの重要な知見を得た。第1に、FAD8の量的な発現が自身に固有のエキソン-イントロン構造を必要とすること、第2に、FAD8の温度依存的な発現がタンパク質C末端コード領域により決定されていることである。これらの知見は、レポーター遺伝子の利用がFAD8の発現制御解析に不適であったことと矛盾しないばかりでなく、従来の手法を使用する限りにおいて原理的に察知し得ない、極めて新規性に富む発現制御機構を示唆するものである。
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