研究概要 |
本年度は脳内の神経ホルモン産生ニューロンによるサケの回遊の制御機構を,細胞・分子レベルで理解するために,以下のことを明らかにすることを目的として研究を進めた. i)これまでモデル系として、稚魚期から産卵期までの2年間にわたり下垂体ホルモンmRNA量の年周変動を解析してきたサクラマスの脳について,神経ホルモン遺伝子の発現レベルの変動を測定し,視床下部神経ホルモンと下垂体ホルモンの遺伝子発現のレベルでの対応を明確にする. ii)産卵回遊途上の各段階のシロザケ脳内各部域における神経ホルモン遺伝子および下垂体ホルモンの発現レベルの変動を解析し,母川回帰にともなう視床下部-下垂体系の動態を明らかにする. さらに,iii)神経ホルモン遺伝子の発現調節機構,およびiv)標的細胞における神経ホルモンの作用機構を,光学的なイメージングによる手法と分子生物学的な方法を併用して解析することを目指し,以下の知見を得ることができた. i)サクラマス脳内の終脳後腹部および視索前野にかけて分布するGnRHニューロンにおけるGnRH遺伝子の発現が,生殖腺の成熟が高まり始める春および最終成熟が進行する秋に上昇した.春の上昇は成長ホルモンおよびプロラクチン遺伝子の発現レベルがたかくなることに,秋の上昇は生殖腺刺激ホルモンサブユニット遺伝子の発現の上昇に対応していた. ii)石狩川に回帰してきたシロザケの脳内各部では,石狩湾沿岸域から千歳の孵化場への溯上にともないGnRH遺伝子の発現レベルが上昇するが,そのパターンには部域差が見られた. なお,イメージングによる解析で,GnRHによって,バソトシン産生細胞の[Ca^<2+>]_iの増加をともなう電気活動が高まることが示された.
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