研究概要 |
無脊椎動物に存在する巨大サルコメアの横紋構造が,どのようにして維持されているかに関して,構成している弾性タンパク質を中心に研究をおこなった。 無脊椎動物であるザリガニのはさみ筋には,静止長が8.3μm,伸びると13μmにおよぶ巨大サルコメアが存在する。そこには脊椎動物(静止長約2.4μm)のコネクチンと同様な働きをする弾性タンパク質が存在し,thick filamentをサルコメアの中央に位置させている。なぜザリガニはさみ筋の弾性タンパク質は脊椎動物の3.5倍もの長さのサルコメアを維持できるのか,を明らかにするために,この弾性タンパク質の全一次構造17,352残基を決定した。解析の結果,脊椎動物コネクチンで伸縮に関与するIgドメイン及びPEVK領域もあったが,まったく新しい繰返し配列(SEK repeat)が存在した。この配列をもとに部位特異抗体を作製し,サルコメア内での局在を調べた結果,分子全体の70%が伸縮に関与していることが分かった(脊椎動物コネクチンは15%)。このタンパク質のcDNAは53kbp,分子量は196万であり,無脊椎動物(Invertebrate)のコネクチンであることから,I-ネクチンと呼ぶことにした。さらに,新規SEK領域の融合タンパク質を調製し,1分子計測により張力を測定した結果,persistence lengthは0.37nmであり,SEK領域は非常に伸びやすい性質であることが示唆された。このことから,無脊椎動物の弾性タンパク質I-コネクチンは,PEVK領域が2つある(脊椎動物は1つ)と共に,脊椎動物には存在しない非常に伸びやすい性質の新しい配列を持つこと,さらにはC末端がA-I junstionに存在することで,脊椎動物の3.5倍もの長さの巨大サルコメアを担うことができると考えられる。
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