研究概要 |
鞭毛運動の基本は,周期的屈曲運動(振動)である.この周期的屈曲は,鞭毛軸糸内のダブレット微小管間に起こる滑り運動を基本とし,滑り運動はダブレット上に並ぶモーター蛋白質ダイニンによっで引き起こされる.本研究では,鞭毛の振動の基本メカニズムを解明するために,1)ダイニン1分子における化学-力学情報のカップリング,2)軸糸内の9本のダブレット上のダイニン間における化学-力学情報のカップリング,3)これらの化学一カ学情報のカップリングの,中心小管/ラディアルスポークを介した制御,を明らかにすることを目指して実験を行った.1)については,蛍光'ATPを用いてダブレット上のダイニンのATP結合状態をエバネッセント顕微鏡により観察することに成功したが,蛍光ATPはダイニンにより加水分解されるにも関わらずダイニンの滑り運動を誘導しないことが確かめられた.したがって,滑り活性をATPase活性と対応させながら解析しようという試みは現段階では困難であることが判明した.運動にカップルしないATPの加水分解がどのような意味を持つかは今後の課題である.2)について,我々はエラスターゼ処理した軸糸の滑り速度解析から,ダイニンのモータードメインのみを持つ断片が正常なダイニンの活性を増大させることを見い出した.ダイニン間には微小管を介した協調的活性制御機構が存在すると考えられる.3)については,カルシウムによるダイニン活性の制御が中心小管/ラディアルスポークを介した機構によること,その制御によりダイニンの活性が軸糸内で切り替えられることが振動の基本機構であることを示唆する結果を得た.2)の結果に基づいてダイニンの振動活性の制御の実態を明らかにする新しい実験系の検討を進めつつあるが,この実験系の実現にはまだいくつもの困難があるので,それらをいかに克服するかが今後の課題である.
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